オフィスH  誠信の交わり

オフィスH(オフィスアッシュ)のブログです。世界から、豊かな物語を紡ぐ個性的なアニメーション映画や独立系作家に役立つ情報を紹介します。

数十億円のコンテンツファイナンス手法が開発される一方で、世界的な高評価を得る独立系作家が数千万円の資金調達に苦労する現状が、日本にはある。金融手法だけでは解決できない、作家が抱く不信感、そして文化的価値のある創作に対する制作基盤支援の制度不足があるようだ。

<プロデューサーに対する独立系作家の“不信感”>
調達できる資金が高額化し、手法が多様化しても、現状ではそのプレーヤーの広がりに壁がある。その一因は、資金調達を望む制作会社やクリエーターの躊躇にあるようだ。まず、金融手法は高度で複雑になり、制作者の理解がそれに伴わない。そこで、制作者への啓発が必要であるとされる。あるいは、投資家とクリエーター双方のインターフェースを行うプロデューサーの不足を問題視し、緊急なプロデューサー養成が説かれるのだが、養成メソッドが確立されていないばかりか、金融技術とコンテンツ制作の両面に長けたプロデューサーの理想像をどこに求めるかでも議論が分かれる。制作者が躊躇するのは、制度の理解不足やプロデューサーの不在だけが原因と思えない側面もある。
短編アニメーション『頭山』でアカデミー賞ノミネート・国際賞20以上を受賞した、アニメーション作家山村浩二氏は、テレビなどの副業をしながら、時間と資金を蓄え、20数年前から自己資金で「作りたい作品を作り」を続けてきた。山村氏も「十分な資金があるわけでなく、資金調達は昔から考えてきた」。しかし「他人に管理されたくない」から、当てるために横やりを入れることもあるプロデューサーの関与を倦厭してきた。また文化庁などの公的助成金は、納期が短すぎるなど、使い勝手が悪いため、近年では申請すらしなくなった。同氏のような独立系作家は、10分くらいの短編に、企画から完成まで1年半から2年間を掛ける。それは、手書きやコマ撮りのアニメーション技法だからというだけでなく、質を徹底に高めるからだ。自助努力で貯えた1,000万円前後の製作費の大半はプリントやポスプロ費用に消える。その他の経費や人件費を含めれば、合計2,000万円前後はほしいところだ。短編に2,000万円は回収できないとして資金提供を断られてきた。国際的な評価が極めて高い山村氏には、アカデミー賞短編アニメーション部門で6回も受賞したカナダ国立映画庁から合作の申し出が数年前から来ているが、分担金が調達できなくて、制作に入れない状態だ。


<コンテンツファイナンスのギャップ>
コンテンツファンド側から、完成度の高い短編企画が必要とする資金をどのように提供するかという声は聞こえない。ファンド運営者が言う「良いアイデア」「新しい映像表現」と、日本の映像文化の伝承者の域に達した独立系作家の希望との間にギャップがある。「アートアニメーション」と呼ばれる独立系作家の作品は、国際映画祭の評価を受け、作家はステップアップを図る。優れた作品は、50年も100年もアニメーション史に残る。しかし日本では、映画祭コンペに出品できる著作権を持つ作品を個人作家が作らない、あるいは出品しない傾向が強まりつつある。それは、適切な支援や安定した収入を得られず、副業でやりくりしながら「作りたい作品」を追求する若手が減りつつあるからだと山村氏は指摘する。アニメーション大国と言われながらも、山村氏に続く、第2・第3のアカデミー賞候補の姿が見えないのだ。
日本には「制作の場がない」と、欧米事情に詳しい山村氏や、古参のアニメーション作家の古川タク氏らは指摘する。独立系作家の多くは、自前のスタジオを何年も掛けて整える。しかし、「このようなことを、誰もができるわけではない。僕は、カナダの国立映画庁のような所に憧れた。安定した制作環境を求めて、世界のトップクラスの作家がカナダに集まる」(山村氏)。企業に属さずとも国際映画祭で受賞できる作家を増やすには、撮影、ポスプロ、フィルムの現像やプリントなどの設備や技術者が揃った、制作の場が必要とされる。一個人の努力には限界がある。「制作の場」への資金に対する、業界あるいは公的な援助が求められている。


映像新聞 2006年7月10日付け
連載 コンテンツファイナンスの現状と課題(6)
「個人制作者の意欲削ぐ”支援態勢”」
http://www.eizoshimbun.com/

新聞に掲載された本原稿は、きっちり校正され、もっと読みやすいです。
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http://blogs.yahoo.co.jp/hiromi_ito2002jp/39507086.html

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