オフィスH  誠信の交わり

オフィスH(オフィスアッシュ)のブログです。世界から、豊かな物語を紡ぐ個性的なアニメーション映画や独立系作家に役立つ情報を紹介します。

コンテンツ資金調達に不可欠とされる完成保証について、日本の実態に即した動向が出てきた。また、法律や経営診断の実務家がコンテンツ業界に対する組織的な取組みを始め、日本のコンテンツ産業が弱いとされてきた専門実務面でもコンテンツ流通促進を支える機運が出てきた。連載最終回として、それらを紹介する。

<日本型の完成保証>
投資家や金融機関の投資適性判断に必要とされてきたのが、コンテンツの完成保証である。コンテンツそのものが完成しなければ、収益はあり得ない。制作資金調達のコンテンツファンドは、対象物件が形になる前に投資判断を下す。ハリウッドは、ネガティブ・ピックアップ方式と呼ばれる、完成保証の制度を開発した。独立した完成保証会社が、独立系プロデューサー等との間で契約を結び、管理費・手数料や保険料、超過撮影の予備費等と引き替えに、完成保証状(ボンド)を発行し、金融機関はそれを担保にプロデューサーへ融資する。完成保証会社は、保証状発行前の企画等の審査と制作開始後の制作管理を行う。ハリウッドの映画製作事情に詳しい、米国弁護士ミドリ・モール氏によると、完成保証会社は(1)映画が予算を超え、資金難に陥った場合、完成するまで不足分を負担する、(2)制作会社から撮影中の映画を引き取り、自ら完成させる。最悪の場合は、金融機関に融資額を返済し、映画制作を中止する。
経済産業省は、完成保証制度は資金調達手法の開発と不可分であると説いてきた。民間でも、プロデューサーズアカデミア(現シネマ・インヴェストメント)の原会長が、日本映画完成保証株式会社(仮称)の設立準備室を立ち上げ、工程、法務、経営に関する調査検討をし、日本型制度の確立を目指した時期がある。それより以前から、原氏は知的財産協議会(FCC協議会)の日本型完成保証研究会でJDC証券の土井氏らと検討を重ねた。このような機運から、知的財産戦略本部の「知的財産推進計画2005」は、「金融機関等による資金調達スキームを活用するため、完成保証制度などの環境整備について、2005年度中に、関係金融機関等に働きかける」とした。しかし、日本の実情に即さないことが徐々に明らかになってきた。そこで、「知的財産推進計画2006」では、単に「知的財産の価値評価の実務を奨励する」とし、資金調達の多様化においても「知財信託の活用事例の公表」「日本政策銀行の融資制度の融資スキームや事例の公表」あるいは「民間金融機関における日本政策銀行の知財担保融資同様の取組みの奨励」にトーンダウンした。
日本型制度は、ハリウッドのそれとは内容も形態も異なりそうだ。シンクの森祐治社長は、日本では完成保証は単なるコストと認識されており、「保険」部分に焦点が当てられるが、その部分だけではリスクが高く、事業としては成立しないとする。ハリウッドの完成保証とは、プロセスマネージメント、プロセスバイプロセスのコントロール、契約交渉の総体で、完成保証会社は十分なフィーを得られる仕組みになっているからだ。日本では、米国のフィルム・ファイナンス・インクのような専業企業ではなく、ファンドのハンズオン事業、つまりファイナンス事業と対を成して制作管理や完成保証をしようとする事業者が現れつつある。
JDC証券は、制作には関与しないが、ビジネスコーディネーション事業として販売面のアドバイスや仲介、ブロードバンド配信事業者との仲介で、投資案件の成功率を高める。GDHキャピタルの後藤文明社長は、「日本には、保証料に対しフィーを払う商習慣がない。独立会社では、金利換算だけでも相当なコストになり、スケールメリットを出すのが難しい」とする。そこでファンドを成功させる策として、GDHグループの総力で投資案件の審査決定、制作管理、マーケティングコンサルティングをおこなう。「アニメ制作を専業とするGDHだから、投資対象の制作会社が失敗しても、引上げて完遂できる」(後藤氏)。シネマ・インヴェストメントも、マーケティングを主要事業の一つにしており、投資対象の制作会社のバックあるいはパートナーとして、コンテンツの完成を目指す。日本では、米国のような独立系の完成保証会社ではなく、コンテンツファイナンスを担う事業者が、投資家保護や収益向上を目的に「完成保証」事業も担う仕組みが開発されつつある。


<実務サポートシステム整備の萌芽>
NPO法人エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク(ELN)は、コンテンツ2次利用の権利処理や国際共同製作などに関わる問題について法的視点に立った解決を目指すために2004年に設立された(2005年NPO法人化)。その母体は2000年にコミックス作家約750名と出版社大手8社らが設立した「21世紀の著作権を考える会」で、コミックス本のレンタルなどの流通新形態化に対する危機意識が発端になった。コミックス業界では出版社らが作家と協力し「マンガ業界を守ろう」と団結し、貸与権の書籍適用などを要求した。国際的な競争力を持つコンテンツの保護育成を打ち出した経済産業省も文化庁へ働きかけをおこない、2004年に法改正が成った。事務局として関与した久保利英明弁護士や山崎司平法律事務所などの弁護士らが、知的財産戦略本部と協力しながらコンテンツ産業を法律面からバックアップしようとするのが、ELNである。今年4月現在532名(うち弁護士361名)が参加し、年1,2回のシンポジウム、月1回の勉強会を持つ。また、業界関係者の求めに応じた活動もおこなう。たとえば、カンヌや東京などの国際映画祭で、日本映像国際振興協会(ユニジャパン)がおこなう「プロデューサーズ・ワークショップ」にELNの弁護士を派遣し、法的支援をする。また、2005年4月には全国各地で知財関連業務に対応できる弁護士のネットワーク「弁護士知財ネット」が発足し、約1,200名の弁護士が参加している。
一方、中小企業診断士も動き出した。昨年デジタルコンテンツ協会が東京都杉並区産業振興課アニメ係の協力を得ておこなった「アニメ業界に対する出張・支援強化ヒヤリング」をきっかけに、中小企業診断協会はコンテンツビジネス研究会(仮)を立ち上げ、業界の構造的問題の研究やスタジオ経営問題への個別対応などの準備を始めようとしている。これまで、コンテンツ業界では、中小規模事業者や個人作家らが法律や経営の実務家にアドバイスを求めることは少なかった。近年の行政バックアップもあり、専門家集団がこの業界へ接近を始めた。実務サポートがシステム化され、業界の構造的問題の改革や国際化、あるいは経営改善が加速することを期待したい。


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http://blogs.yahoo.co.jp/hiromi_ito2002jp/39507086.html

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