オフィスH  誠信の交わり

オフィスH(オフィスアッシュ)のブログです。世界から、豊かな物語を紡ぐ個性的なアニメーション映画や独立系作家に役立つ情報を紹介します。

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3月13日から22日まで、ドイツとフランスへ視察に行ってきました。
今回は、某大学の先生方と一緒に、アニメーションスクールの教育状況や独立系作家・スタジオの活動を調査してきました。
訪問先はほぼ既知でしたが、新しい展開もあり、旧交を温め、楽しい旅となりました。

ヨーロッパは昨年の冷夏から天候不順が続き、春近い3月だというのに、寒くて、すっきりしない天気でした。
最後のパリでは、雹や通り雨が降ったかと思えば、強い風で雨雲が吹き払われて、満月が現れ、猫の目のように変わる天候でした。

ドイツでは、2つのスクールを訪問しました。
まず到着した日に、南西ドイツのLudwigsburg(リュードビックスブルグ)市にあるバーデン・ヴュルテンベルク州立フィルムアカデミー(Filmakademie Baden-W??rttemberg)のアニメーションインスチチュートへ。
ディレクターのThomas Haegeleさん、Projects SupervisorのSabine Hirtesさん、Celine Kruskaさんと面談。
学校が休暇中だったので、学生とは話せませんでしたが、“映画学校”の中のアニメーション科として充実した環境であることは再確認できました。
ヨーロッパの学校では多いことですが、フィルムアカデミーもアニメーション専任の常勤教員はおらず、第一線で活躍する方々が数時間、数日間、数週間だけ来校し特別授業をするというスタイル。
その代わり、学生課の専任スタッフと技術サポートスタッフが充実していました。
学生課のスタッフは、学生の制作プロジェクトや外部企業とのコミュニケーションをサポートする人たち。映画祭へのエントリーや学生作品の権利管理もおこなっています。日本の大学の学生課よりも、実習制作にアドバイスをして、相談役のようです。
ちなみに学生作品の著作権はフィルムアカデミーに帰属するそうです。
撮影機材やコンピュータ機器・ソフトを管理するスタッフは8人。フィルム撮影、ブルースクリーン撮影ができる屋内スタジオ2個所、サウンドミックス・収録も校内でできます。最近はHDの撮影、仕上げが増えているとのこと。
遊ぶ場所もないリュードビックスブルグで、24時間アニメーション制作三昧の4年間。こういう経験が、アーティストとしての糧になるのでしょうね。
(学生は校舎の鍵を持ち、24時間365日いつでも制作可能です)。
俳優養成科も近々に新設され、映画総合大学として、ますます充実しそうです。

2日目は、ベルリン郊外のポツダム・バーベルスベルグにある、HFF Potsdam-Babelsberg(Die Hochschule f??r Film und Fernsehen、テレビ映画学校)を訪問。
ベルリンが東西に分かれていた頃、2つの映画学校ができたその1つで、東ドイツ側の学校でした。
もう一つは、西ベルリンにあった Deutsche Film -und Fernsehakademie Berlin(dffb)。ポツダム広場のソニーセンター内に校舎があります。
HFFが技術専門職やアニメーションの専門学科もあり、ドイツ最大規模の総合映画学校なのに対し、dffbは脚本、監督コースなど小規模。合併も取りざたされているそうですが、やはり“東と西の文化差”は簡単には埋められないと、dffbの卒業生で、今はdffbの教壇にも立つ若手映画監督が言っていました。
HFFも休暇中であったため在校生と話はできませんでしたが、副学長で国際担当のMartin Steyerさん、アニメーション学科のFrank Gessnerさんと面談しました。
さらにEUの支援も受けている、国際ワークショップ「INSGHT OUT」が開催中で、映画「Transformers」のILMのVFX監督Gerald Gutschmidtさんの特別講義を拝見しました。
http://insightout-training.net/cms/?id={0}
HFFは、リュードビックスブルグのフィルムアカデミー同様、映画・テレビ業界のスタッフを育成する総合スクールで、日本でいえば大学・大学院レベルの水準です。
映画の都・ベルリンを象徴する“バーベルスベルグ撮影所”に隣接し、業界との近さも売りの一つのようです。
新校舎も完成し、充実した設備でした。
写真 上:ガラス張りのモダンな校舎。ドイツ最大規模、最古参の映画学校。

週末はベルリンに滞在し、HFF卒業生で、クレイアニメーション作家のIzabela Plucinskaさんのスタジオ訪問。
さらに、ベルリンの夜景が一望できるフラットに住む、『Das Rad(岩のつぶやき)』のHeidi Wittlinger、彼女の友人たち(リュードビックスブルグのフィルムアカデミーとHFF卒業生でベルリンでフリーランスの活動をしている若手作家たち)とのホームパーティへ。Heidiと『No Limits』を制作したAnja Perlとも再会。Anjaは、世界各地を旅していて、最近ネパールでの奉仕活動から帰ってきたばかりとか・・・面白いアニメーション作家です。
興味があれば、こちらもAnjaのサイトもご覧ください。
http://www.neperl.blogspot.com
場所は両方とも、旧東ドイツ側のMitte北地域にあり、若い人たちが多く住む場所なのだそうです。ちょっと堅苦しい佇まいの街でしたが、黄色いトラム(路面電車)が走り、小さなお店のあるオシャレな地域でした。

フランスへ移動して、南仏ヴァランス(Valence)にあるLa Poudriere(ラ・プードリエール)が3校目の訪問先でした。隣接するアニメーションスタジオFolimageとともに、今秋には新しい場所に移転します。
校長のAnnick Teningeさんに学校を紹介していただきました。
ここはとても小規模で、アニメーション作家養成を第一とする、ユニークなスクールです。
やはり専従のアニメーション教師はほとんどいません。学生の自主性+やる気を優先し、外部のプロが指導やレクチャーのために来校する、静かな環境です。
入学前に美術の基礎習得やCGアニメーションの仕事していた学生も多く、作家指向の強い人が望んで来るそうです。
ここも"存分に作る(作って、考えて、評価を受ける)"という環境です。ある意味理想的なスクールだと思います。
その成果か、設立5年程度なのに、学生制作作品は年々レベルを上げています。卒業生は、スタジオでアニメーターとして活躍し始めています。これからは、世界フェスティバルに名の出るアニメーション監督・作家に成長する人たちも多くなるでしょう。
このようなスクールが日本にも必要なのではないでしょうか。
写真 中:学生の制作実習室。小規模ながら、平面から立体アニメーション制作に必要な機材は揃っている。

最後に訪問したのは、フランス第2の都市リヨン(Lyon)にある、私立のEcole Emile Cohl。初訪問です。
アニメーションの父エミール・カールの名を冠しているので、関係があるのかと思っていましたが、縁はないそうです。
1984年に、校長のPhilippe Riviereさんたちが「これからは、ディジタル時代」と設立したそうです。先見の明ですね。
リヨンは、フランスでも名だたるゲーム(ビデオゲーム、PCゲーム)産業地です。世界規模企業の本社もあり、Ecole Emile Cohlの卒業生の多くも就職しているようです。
5年制の学校は、美術大学的な面もありますが、ゲームやマルチメディアのアートディレクターや風刺マンガ作家の養成校といった雰囲気。
授業料が高額(5年間で約600万円)なので、PC機材は充実していましたが、500名程の在校生には狭い校舎でした。非常勤も含め教員は約50名。
平面や立体など美術の基礎を習得し、PCを使ったメディアコンテンツの習得をするようです。
アニメーションはPCでしか実習せず、アニメーションスクールというよりも、ゲーム業界が求める、コンピュータ制作に馴染み、リアリティある絵を描けて、美的センスあるアートディレクターを養成する専門学校といった教育内容です。
欧米のゲームファンが求めるフォトリアリスティックな映像作りには、やはり美術的素養を持つアートディレクターが不可欠なのでしょう。
夜間コースや1週間のスタージュコースがあるのも特徴的でした。
写真 下:日本の専門校のように、PCが並んだ教室でクラス授業を受ける学生たち

それぞれ特色ある学校を訪問し、欧州の多様な教育内容の一端を学べました。