オフィスH  誠信の交わり

オフィスH(オフィスアッシュ)のブログです。世界から、豊かな物語を紡ぐ個性的なアニメーション映画や独立系作家に役立つ情報を紹介します。

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東京工芸大学に招かれて、フランスのフォリマージュ(Folimage)スタジオから3人のアニメーション監督が来日して、講演会をおこないました。

フォリマージュの共同設立者のパスカル・ルノートルさんと、
『エゴイスト』『廊下』など、独特の画風とブラックユーモアが散りばめられたストーリーを得意とする、ジャンル・フェリシオリさんとアラン・ギャニョルさんのユニットです。

12月20日の一般公開は、予想を3倍も上回る参加者があり、その多くは作家の人たちでした。

フォリマージュは、スタジオの第2作目となる長編劇場公開作品『Mia et le Migou(仮題:ミアとミグ)』(監督:ジャックレミー・ジレール)が公開されたばかりです。
フランス全土304スクリーンで上映され、第1週は12.7万人超の動員。
アメリカの『マダガスカル2』の公開にぶつかりましたが、実写映画も含めたトップテンの9位につけました。
(「マダガスカル2」は931スクリーン、92.7万人)。

フェリシオリさんとギャニョルさんも、二人の初長編となる『Une vie de chat(仮題:猫の一生)』の制作の最中です。本作は2010年末完成予定。

ルノートルさんはスタジオ全般の紹介をし、フェリシオリさんとギャニョルさんは「短編から長編へ」というタイトルで、脚本のギャニョルさん、作画のフェリシオリさんの協働を、作品上映を交えて話してくれました。

日本では、アート系作家は”商業アニメ”と別世界に生きる、”好きなこと”をしている人たちと捉えられているようです。
だから、「フランスでは、アート系(独立系)作家はどうやって稼いでいるんですか?」としばしば聞かれます。
心配無用!
もちろん、アーティストはいずこも資金に苦労をするものですが、そもそもフランス、ヨーロッパに”商業アニメ”と”そうでないアニメ”の区別はないようです。
一人の作家が様々な創作をして、それ相応の対価を得ている。
つまり、趣味でやっているアマチュアは別として、プロに”そいう区別”がないということでしょうか。
今回の3人の講演でも、そういうニュアンスは伝わったと思います。

そして、やはりおもしろかったのは、脚本/ストーリー、「誰に何を伝えるか」を常に意識して作品開発しているということ。
ルノートルさんは、一にも二にもストーリー重視と言います。
ギャニョルさんたちもストーリー重視ですが、画や音楽と同じ程度に重要とのこと。

「誰に、何を伝えるか」、これは資金調達や配給に関わる重要なことなのです。
このことからも、フランスの作家たちが”好き勝手なもの”を作っているのでないことはお分かりでしょう。

こんな話しで3時間の講演会はあっという間に過ぎていきました。
できれば、配布した資料を公開したいと思っています。

余談ですが・・・日本動画協会が「アニメの教科書」なるものを発行したそうです。経済産業省が助成しています。
うーん、頭が痛い!心が痛む!!
アニメの教科書って、何?
一部のアニメスクールからは歓迎の声が出ている、とか。
用語や技法の解説なら、教科書は、それなりに役立つでしょう。
しかし、プロに直結する教育で、脚本開発、映像制作といったことを”教科書”で教わらねばならない人を育てて、どうするんだろう???
コンピュータが、簡単に中割や陰つけ、色塗りをする時代です。
つまり、”オペレーター”じゃ付加価値は生み出せない。誰にでも代替がきくような、(低賃金で)アジア諸国の下請けを育てるために、経産省は助成するの?

そういえば、経産省はプロデューサーの教科書というのも作っていましたね・・・
それで勉強して、国際的なビジネスができるPさんが出てきているのかしら。

そうじゃないでしょ!
日本のアニメが世界一というなら、育成すべきは、唯一無二のアイデアやストーリーを出せるひと、オリジナルな映像や音楽を生み出せるひと。
才能ある人たちを束ねて、一つの作品を完成させ、公開できるひと・・・
そういう人たちに必要なのが、教科書???
作るにしても、”ひと”の育て方を勉強してから”教科書”をお作りなさいな。

ルノートルさんによると、「(テレビアニメーションの低価格化などのために)外国での制作に押されていたが、フランスでの制作が生きを吹き返し、フランス制作が増えている」そうです。
アメリカなどに行っていたスタッフたちもフランスに戻ってきているようです。
確かに、フランスのみならず、アニメーションの長編企画も活況です。
どうしてでしょうね?
それを考えたら、日本のアニメ業界がすべきことが分かるハズ。

そういう意味でも、今回のフォリマージュ講演会は意味深いと思います。
残念ながら、経産省のお役人も動画協会の関係者も、人材が流出し続ける日本の商業アニメ会社の役員も、誰一人お越しになりませんでしたが・・・
(HNewsはお送りしてるんだけどなぁ・・・あー、お読みになってませんね、きっと)
ご自分らが何をすべきか考えて、行動してほしいなぁ・・・おっと、偉そうなことを申し上げましたね。

最後に、フェリシオリさんとギャニョルさんのお話から一言。
「短編は映画祭やTVの深夜枠くらいしか露出できません。それでも、短編は作家にも、スタジオにも大事なのです。
なぜなら、映画祭に出品し受賞すれば、ぼくらの知名度が高まります。(伊藤注:世界レベルの映画祭には、力のあるプロデューサー、プランナーなどが目を光らせています)。そして、短編なら少ないリスクで新しいことに挑戦できるからです」。

だから、才能ある人たちが、各々の発想と感性を発揮できる短編を作り続ける環境を作ること。さらには作品を作りながら、フツーの生活も送れるセイフティネットを社会が用意しなければならい、そのようにわたし(伊藤)は考えています。
アニメーションは、50年も100年も後にも人々の琴線に触れ、何かをなす力を秘めているから。
そして、わたしたちの子孫に富、ゆたかさをもたらしてくれるから・・・

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「Une vie de chat」監督:Jean-Loup Felicioli、Alain Gagnol/製作:Folimage