オフィスH  誠信の交わり

オフィスH(オフィスアッシュ)のブログです。世界から、豊かな物語を紡ぐ個性的なアニメーション映画や独立系作家に役立つ情報を紹介します。

埼玉県朝霞市からこんにちは。
今年のアヌシーも最終の土曜日(6/9)までいられず・・・それどころか、水曜日までの3日間でした。忙しかった!
昨晩9日に2012年のコンペの受賞作が決定しました。
アヌシー2012受賞作>>
ノミネート作品>>

短編部門は、(今年も)不作かなと感じるプログラムがありましたが、頭一つ抜けたとは言えないけど、優れた作品もありました。
短編部門の審査員特別賞を受賞した、フランスとカナダ合作、Franck Dion(フランク・ディオン)監督のEdmond Was a Donkey」は印象に残っています。ロバになりたかったサラリーマン、です。監督のディオンさんは、初監督だった「L'inventaire fantome」が評判で、2004年のアヌシーでCANAL J賞を受け、翌年のCartoon d'Or(ヨーロッパのプロが選ぶ、ヨーロッパ大賞)にノミネートされています。今回は、自ら興したPapy 3D Productionsと、フランスのARTE局とNFB(カナダ国立映画制作庁)との共同制作で、得意のコンピュータアニメーションの技が冴えた上、落ちこぼれの主人公がロバになって癒されるというストーリーも共感を呼んだようです。
短編部門の最優秀作・クリスタル賞は、フランスのMichaela Pavlatova監督のTram」。題名通り、トラム(路面電車)の女性運転手が、男性客しか乗っていない、朝の通勤時に”妄想”に取りつかれるお話。テンポ良く、印象に残っているけど・・・これが、クリスタルなんだぁ、と驚き。

日本からは、短編、長編、学生、コミッションドそれぞれ、結構たくさん出品されていたけど、水江未来さんの「
Modern No. 2」が最優秀オリジナル音楽賞を獲得。
水江さんは、幾度も公式コンペのノミネートやアウトオブコンペで上映されてきたけど、今回の受賞、おめでとうございます。

そして、やっぱりアヌシーが力を入れているな思うのが、長編部門。
時間がなく、3本しか見られなかったのは心残りですが、「
Couleur de peau: MielApproved for Adoption)」と「Arrugas/Wrinkles」は見られました。
観客賞とUNICEF賞の「
Couleur de peau: Miel(Approved for Adoption/ハチミツ色の肌)」Jung Henin、Laurent Boileau共同監督/ベルギー、フランス、スイス、韓国合作)は、韓国で生まれ、国際養子として5歳でベルギーに渡ったJung監督の自伝的映画。
イメージ 1

© Mosaique Films, Artemis Productions, Panda Media, Nadasdy Film

太平洋戦争、朝鮮戦争とその後の社会的混乱で、韓国は20万人もの子どもが国際養子として国外に引き取られ、母国の文化を知らずに成長する。1965年生まれのJung(ユング)さんもその一人。2つの文化の狭間に揺れ、養父母と確執を抱える。コミックス作家となり、40歳を過ぎて韓国を訪れる。自分を捨てたのかも知れない”生みの母”への憧憬。そして、ルーツを求める。ベルギーの養父母は実子4人に加え、韓国から迎えた2人の養子を育てる。ユングさんは血縁関係のない”父母と兄弟姉妹”に囲まれて育つ。題名となった『ハチミツ色の肌」が示す、韓国人と、ヨーロッパ人ともに、ユングさんのアイデンティティ。
家族とは何か?血縁だけが家族の絆なのか?と問いかける。
映画によると、子どもたちの中には精神的問題を抱えたり、若くして命を落とした人たちも少なくなかったとか。ユングさんの後に引き取られた”妹”は20代で交通事故で亡くなっています。ユングさんには、彼を支えるマンガ、ドローイングがあった・・・
ユングさんは十代の頃、「自分は日本人だ」と日本のマンガや空手に憧れます。あの混乱の原因の一つを作ったのが、わたしの母国・日本であることを考えると、とても複雑な思い。
わたしが30年前、スイスでフランス語を勉強していた頃、同じクラスにドイツ系スイス人に引き取られた、韓国出身の女の子がいました。1960年に生まれ、母国の日本文化の中で育ったわたしは同世代の人たちが経験した、この”もうひとつ”の成長記に、コミュニケーションが苦手だった”彼女”を思い出しました。
Jungさんのサイト(仏語)>>
「ハチミツ色の肌」本編の一部>>

余談ですが、受賞はしなかったけど、短編部門にノミネートされた韓国の
「Herstory」(Jun-ki Kim監督)は日本(軍)に従軍慰安婦にされた、韓国の女性の体験記。CGアニメーションの仕上がり良く、脚本もまとまっていました。日本人として、重いテーマのアニメーションと向き合いました。

特別賞の
Ignacio Ferreras監督の「Arrugas/Wrinkles(皺)」(スペイン)は、老人ホームを舞台にアルツハイマー病の男性が主人公という、ヨーロッパ・アニメーションの”おとな指向”が現れた、今年の話題作。米オスカーにもノミネートされています。エンディングの一部が分かり難かったけど、まとまりよく、Ferrerasさんの映像センスも光る秀作でした。
最優秀賞のクリスタル受賞、
ルーマニアのAnca Damian監督Crulic – The Path to Beyondチケットを取ったけど、見られませんでした。ドローイング、カットアウト、ディジタル加工などミックステクニックで、惹きつけられる映像です。
ルーマニア人が無実の罪によりポーランドで拘留され、自身の正当性を主張すべくハンガー・ストライキをして命を落とした事件を題材としたドキュメンタリー・アニメーションで、やっぱりヨーロッパ・アニメーションの”おとな指向”の1本。
以前、このブログにも書きましたが、6月15日と16日のEUフィルムデーズ2012で上映されます。

学生部門のことは、また別の時に・・・

最後に、14年間フェスティバルのアートディレクターを務めた
Serge Brombergさんが退任されました。英仏語バイリンガルでエンターテナーのSergeは、フェスティバルの盛り上げに大いに貢献しました。
彼の後任は、カナダ国立映画制作庁(NFB)で長年プロデューサーを努めたMarcel Jeanさん。Marcelさんはカナダ出身ですが、フランスのFolimageスタジオとレジデンス・プログラムを行い、ヨーロッパのアニメーション作家をとても良く知っている一人。
オフィスHも、これまでにMarcelさんプロデュース作品をトリウッドで上映してきたから、嬉しい人選です。

そして、追伸
街を歩いていて、Jung監督と出会いました。立ち話しかできなかったけど、いい感じの方でした。握手してもらい、嬉しかった・・・
これから、お祝いメールを送ります。

追伸2
Jung監督から返事が来て、フランスとベルギーで「
Le Couleur de peau: Miel(仮題:ハチミツ色の肌)」の公開が始まったそうです>>

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