オフィスH  誠信の交わり

オフィスH(オフィスアッシュ)のブログです。世界から、豊かな物語を紡ぐ個性的なアニメーション映画や独立系作家に役立つ情報を紹介します。

2020年。
アジアの隣人を苦しめ、日本の緑土を焼き尽くした、日本の軍国主義、帝国主義が破れ、75回目の夏です。
わたしは1960年に生まれました。
高度成長の始まりと、「もはや戦後ではない」と言われ始めた頃。近所では感じない”敗戦の痕”が、池袋などの繁華街には残っていました。

60年が過ぎました。古から、暦が一巡するとされる年月です。
韓国の大ヒットドラマ「愛の不時着( 사랑의 불시착)」にハマりました(柄にもなく?)。
ネットではその面白さを済済多士の面々がけんけん‐がくがく。
今さらドラマ評でもないですが、わたしがハマった肝を一言だけ。
それは、「線」が愛を引き裂く切なさ。
愛の不時着19

ドラマの舞台は現代の朝鮮半島。朝鮮戦争休戦中の韓国と北朝鮮は軍事境界線で隔てられています。
同じ民族なのに、人びとは会うことはもちろん、電話やメール、Zoomは通じず、(一般人は)相手の消息すら知る術はない。
人が引いた「線」で、人が悲しむ、人が命を落とす、不条理。
イスラエル出身のウリ・クラノット&ミッシェル・クラノット夫妻が描いた「ホワイトテープ」「ブラックテープ」と同じ、「線」。

朝鮮半島が38度線で分断されたことに、日本が深くかかわっているのは自明の通り。
ユン・セリは言う、「(朝鮮半島が)統一されたら」と。
「愛の不時着」で、北朝鮮の人びとに親近感を持ったり、主人公のリ・ジョンヒョクとユン・セリが越える軍事境界線を知った人も多いでしょう。
二人が愛を実らせる地をスイスにせざるを得なかったのは、アジアの近・現代史の一端。

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ハンギョレオンラインより

追悼式での安倍首相のあいさつでは、2013年以降の式辞で触れてきた歴史と向き合う趣旨の文言が消えた。それとは別に、安倍政権で掲げる外交・安全保障の方針「積極的平和主義」が盛り込まれた。未来を見据える立ち位置を強調しながら、ややもすると過去の負の歴史に向き合おうとしない姿勢が内包していないか気になる。戦後75年という節目で何かを総括しがちな空気も感じるが、戦没者の人数にしろ、遺骨の収集にしろ、空襲の民間人被害の補償にしろ、歴史認識や戦後処理は、まだまだ解決すべき課題が残ったままだ。

「愛の不時着」と今年の夏、わたしが生まれ育った「日本」と、朝鮮半島の人々との間の長い歴史を思う。
朝鮮半島の政治と未来は、その地の人々が自ら決めるべきこと。
日本は決して邪魔してはいけない。
わたしの力は蟻のそれより小さいけれど、「線」で裂かれる人々の哀しみを思うこと、その気持ちに寄り添うことははできる。

江戸時代の儒者、雨森芳洲先生は朝鮮語を学び、朝鮮通信使を接遇した外交官です。わたしの座右の銘は、芳洲先生の遺訓「誠信の交わり(まごころの外交)」
朝鮮交接の儀は、第一に人情・事勢を知り候事、肝要にて候
互いに欺かず争わず、真実を以て交わり候を、誠信とは申し候
外交の心得を伝える言葉ですが、相手の事情を知った上で、互いに欺かず、争わず、真実(まごころ)をもって付き合うこと。人と人の交わりすべてに通じる名言だと思います。

「愛の不時着」で韓国ドラマに魅かれ、北朝鮮の実情に興味をもったわたしたち。
彼の地の人々の気持ちを思い諮り、行動する。それが、人と人とを分かつ「線」をなくす一歩になると、わたしは考えています。

「心から祈って待ち続ければ、きっと会える」。
リ・ジョンヒョクのこの言葉を信じ、「線」がなくなる日が来るよう、わたしもできることをしたいと思う。

追記
スイスの東洋美術研究者が、日本と韓国の今を語っています:
会話が一番大事だと思います。共同プロジェクトを一緒にやるとかね。自分の世界に入り込んで、相手とのコンタクトをなくすのが一番良くない。人に会うチャンスを増やして、コネクションを増やしていく。そうしてお互いを理解していくのが一番良い。

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